国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

みんぱく世界の旅

エジプト(2) 『毎日小学生新聞』掲載 2016年7月9日刊行
西尾哲夫(国立民族学博物館教授)
コーヒーでお客さまをおもてなし

アラビア語でブンとよばれるコーヒー豆を売っているカイロの店

ベドウィン(アラブ遊牧民)は、客人をもてなすのが大好きです。調査で砂漠を移動中に、ベドウィンのテントを見つけてあいさつに行くと、かならずコーヒーが出てきます。コーヒー豆のできるコーヒーノキはアフリカ原産ですが、コーヒーを飲む習慣は、今から400年くらい前に中東から世界中に広まりました。ベドウィンは訪れた客をコーヒーでもてなしながら、さまざまな情報を交換するのです。

 


みんぱくの教員は現地で資料を買ってきます。これはコーヒー道具。古い道具はなかなか手に入りにくくなっています

とはいっても日本のように、カップに入ったコーヒーがすぐに出てくるわけではありません。客がやって来ると、一家の主婦がフライパンでコーヒー豆をいりはじめます。豆が半いりくらいになると、今度は金属製の容器に移しかえ、時間をかけて棒で豆をくだいていきます。のんびりとした空間にカンカンというリズミカルな音がひびきます。
半いりにしたコーヒー豆からは、うす緑色のコーヒーができます。本格的な茶色のコーヒーが出てくるのはこの次です。遊牧民は砂漠に生える植物についてもよく知っていますから、ここに香草を入れてくれることもあります。


みんぱくで、ベドウィンのコーヒー道具とともにテントの様子を再現しました

小さなコップに3杯、4杯・・・・・・

コーヒーが出てきてもすぐに話の本題に入ってはいけません。小さなコップに入ったコーヒーを飲みほすと、すぐに2杯目をついでくれます。これを飲みほしてもすぐに3杯目、4杯目と続き、これ以上は飲めない状態になって、やっと話の用件を切りだすことができるのです。

 

一口メモ

「アラビアコーヒー」がユネスコの無形文化遺産になりました。コーヒー文化はアラブの人びとの暮らしそのものなのです。

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