国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

みんぱく世界の旅

エチオピア(3) 『毎日小学生新聞』掲載 2016年12月31日刊行
川瀬慈(国立民族学博物館助教)
歌と踊りの芸能集団

アズマリには子どもたちもいます

エチオピアには、音楽をなりわいに生きる芸能集団「アズマリ」がいます。馬の尾の毛をたばねた弦、ヤギの皮を張ったひし形の胴体からなる弦楽器「マシンコ」を演奏し、歌い踊ります。

アズマリは古くは王侯貴族に仕え、主人の長旅の疲れをいやすために歌ったり、戦場で兵士を鼓舞するためにも歌ったといわれています。エチオピア北部の地域社会では、結婚式の場や、酒場、あるいは儀礼の場などで、アズマリが歌や踊りを通して、聴衆たちと密なやり取りをしている姿をみることができます。アズマリは客の容姿などから、その場で歌詞を思いつき歌い、客の機嫌をとるのがとてもうまいです。

 

酒場で外国人観光客に歌を披露するアズマリ
お客さんも参加して楽しむ

客たちも負けてはいません。その場で創作した歌詞を積極的にアズマリに投げかけます。アズマリは楽器の演奏に合わせて、一字一句、間違えずにこれらの歌詞をくりかえし、歌い上げます。お客さん同士のけんかが、アズマリを介してなされることもあります。

また、アズマリと客、あるいは客同士が向かい合い、イスクスタと呼ばれる、上半身を波打たせ、肩を小刻みに震わせる踊りを行います。あたかも、歌と踊りを通して、人々が会話を行っているようです。

 

弦楽器「マシンコ」を弾くアズマリ

エチオピアのアムハラ語には「踊り」を直接意味する言葉はなく、その代わり、「ゼファン」という単語があります。この語には、踊りと歌、両方が含まれます。アズマリと人々の豊かなやり取りは、まさしくこのゼファンという、踊りと歌がとけ合って一つとなった状態を表しています。

 

一口メモ

アズマリは元々、町から町を移動する芸能集団でしたが、近年は都市に定住し、酒場やホテルの専属歌手として歌う人が増えています。

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