国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

民族学者の仕事場:Vol.1 佐藤浩司―住まいの原型

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─ 社会よりも個人の方から考えていくというのが、最近の佐藤さんの研究のスタンスのように思うのですが、どうしてそういう立場にたどりついたんですか? どうも研究の出発点からお話を聞いたほうがいいんじゃないかと思うんですよ。先ほど住まいの原型という話が出ましたが、最初は日本の家屋ではなくて、東南アジアの調査をしたんですよね?
佐藤 私は建築史を勉強していたんですが、建築学の歴史の中で、じつは民家に対する関心はそれほど古いものではありません。建築史というと、だいたい社寺とか重要文化財になるような建物、民家でもかなり大きな住宅がおもな研究対象でした。ふつうの民家を対象にするようになったのはずいぶん後のことだったんですよね。
 それに日本の民家は、私が建築史の勉強をはじめたときにはほとんど全国の調査が終わっていた。重要なものは文化財に指定されたり、修復されたりしていて、地域社会が民家を支えているような状況ではなかったんです。そこで、ある社会が自律的に存続していく時に、その社会がつちかってきた民家が現に生きているような場所はどこかにないかと思った。研究者の幻想かもしれないけれど、そういう社会を求めて海外に出かけたんです。
 

【目次】
イントロ住まいの調査手法住まいの原型フィリピン・ルソン島の民家と日本の古代住居調査作業屋根裏の空間水上生活者バジャウと狩猟採集民プナン何のための住居住居に向けられたエネルギーマイホームの共同研究会消費財としての住居巣としての住居空間と人間関係ホームレス住居と記憶四冊の本重みを失う空間