国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

研究テーマ・トピックス|韓敏

観光からみる文化の創出、表象と再編成

 

中国人による国内観光客数は84年の2億から99年の7.19億にのぼり、15年の間3.5倍増えた。国際観光客数は、78年の71万から1999年の2704.7万人に上り、38倍増えた。1999年WTO世界観光組織の公表結果によると、中国への国際観光客数は、世界ランキング5位になった(第1位はフランス、次はスペイン、アメリカ、イタリアの順)。WTOの予測によると、2020年に中国は世界の第一大観光目的地となり、1.45億人の観光客を受けいれる見込みだ。

一方、中国人海外観光者数は2000年1000万人にのぼった。WTOの予測の予測によると今後2、3年で中国はアジア一の観光客輸出国、2020年に世界の第4の観光客輸出国となる。

これだけの観光者が中国を出入りすることは、当然、現代中国の社会と文化のあり方に影響を及ぼしている。観光のグローバル化のなかで、ローカル文化の創出と表象、アイデンティティの再確立、主流文化と周辺文化の再編成に焦点をあてて考えている。

 

華僑の故郷、和順郷の一角 華僑の故郷、和順郷の一角
川に沿い、山に向かって建てられた建物の多くは清朝末期と民国初期のものである。青い山、清らかな小川、軒先のそり返ったの民居と起伏のある石板の路地は絶妙なハーモニーを作り出している。

 

和順郷の農家の中庭 和順郷の農家の中庭

 

云南省騰沖県和順郷の張氏祖廟の前に立つ現役の張氏宗族の理事長(族長) 云南省騰沖県和順郷の張氏祖廟の前に立つ現役の張氏宗族の理事長(族長)
社会主義革命以降、中国では否定されるようになったが、1980年以降、人民公社が解散されてから、中国各地で宗族単位の祖先祭祀や族譜の編纂などが目立つようになっている。その動きの中で、和順郷の人口の大半を占めている8つの宗族が、長年中止されている祖先祭祀を回復している。現在、和順郷にある5つの寺院と道観、8つの宗族宗祠が郷政府によって正式に和順郷の観光スポットに指定されている。また宗族の持っている族譜や伝記などは、和順郷だけではなく、騰沖、雲南ないし、中国西南部の移民歴史の研究に貴重な資料とされ、高く評価されている。

 

云南省騰沖県和順郷の農家の母屋 云南省騰沖県和順郷の農家の母屋
真ん中の「天地君親師」の位牌は、それぞれ天、地、君主、親と学校の先生を表す。民国が誕生してから、真ん中の字、「君」が「国」に変わったという。その右にあるのは、一家の運命を司る竈神の位牌であり、その左にあるのは一族の歴代先祖の位牌である。文化大革命の間に、隠されていたこれらの位牌は、現在、堂々と母屋の正面の壁に飾られている。現在、和順郷では、どの家の母屋もこのような三つの大きな位牌を奉られている。

 

和順郷の洞経会の皆さんが観光客のために洞経を演奏している 和順郷の洞経会の皆さんが観光客のために洞経を演奏している