国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

研究テーマ・トピックス|韓敏

中国の麺食――安徽省北部での調査に基づいて

 

中国語の麺食は、日本語の麺類のほかに、マントー(小麦粉をこねて、発酵させて蒸した食品)、肉まん、餃子などを含む小麦粉で作った食品の総称である。安徽省北部は、中国の南北の境目になる淮河より北に位置し、紀元前132年の黄河が南下して氾濫したことによって、平原と、少量の丘陵と台地の地形が形成された。黄河氾濫によってもたされた黄土高原の物質がアルカリ分を多く含めるため、ここは稲作には不適であり、歴史的に麺食を主食とする地域となった。

安徽省北部での調査を通して、麺食の種類と彼らの日常生活の関係、年中行事や冠婚葬祭における麺食の象徴と役割、麺食をめぐる人間関係、麺食が絡むことわざを検討し、漢族社会における麺食のもつ文化的、社会的意味合いを分析した。

「送祝米」(ソンズーミー)の贈り物 「送祝米」(ソンズーミー)の贈り物
安徽省北部では、始めての子供が生まれてから一ヶ月が経つと、「送祝米」という儀式を行い、子供の誕生を盛大に祝う。子供の母親の実家およびその父系親族たち、子供の祖母の実家、子供の父方の父系親族集団から婚出した女性たちが子供に贈り物をする。

 

儀式の名は、「送祝米(ソンズーミー)」となっているが、米がとれないので、小麦、卵、砂糖、布などが贈り物にする。この写真に出ているものは、すべて子供の母親の実家及びその父系親族からの贈り物である。柳の枝で編んだかごの中には一律に小麦、砂糖と卵が入れてあり、これらは一つの世帯からの贈り物である。赤色の篭は、母親の実家からの贈り物である。すべての贈り物の中でもっとも量が多くてしかも豪華だとされる。赤色の篭は直径およそ1メートルがあり、四層からなっていて、それぞれ砂糖、卵、小麦と子供服が入れてある。そのほかに玩具、子供用の車やベッドも贈られる。

 

焼いたパイ 焼いたパイ――「貝焦花」(チャウファー)のための贈り物
子供が生まれてから、数ヶ月が経つと、種痘をする。種痘をした子供は無事かどうか、母親の兄弟・姉妹と父親の姉妹が見舞いにいく。安徽省北部ではこれを「貝焦花」という。「貝焦花」にいく人は通常、50枚ぐらいの焼いたパイを持って子供の親に贈る。子供の種痘の跡が化膿しないで早く焼いた薄いパイのように固まるようという気持ちがこめられている。