国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

生きものをめぐって(1) ─ ウサギ ─

異文化を学ぶ

一昨年、大阪でも上映された「ラビット・プルーフ・フェンス」(邦題「裸足の1500マイル」)は、多くの涙を誘った。幼い姉妹を母のもとに導いたウサギ除けの柵は、牧地に穴をあけ牧草を食い荒らすやっかいな小動物の拡散を防ぐために作られたものだった。

このウサギは、「ラビット」というようにアナウサギで、それはもともとオーストラリア大陸にはいなかった。イギリス貴族の娯楽をまねたウサギ狩りを楽しむために、一九世紀半ばに今のヴィクトリア州ジロング市近郊に導入された。

羊を守るための牧場主によるディンゴ(オーストラリアの在来犬)の駆除は、アナウサギの天下をつくりだした。それは食肉ともなったが、牧場にとっては未だに頭痛の種である。

国立民族学博物館 松山利夫

毎日新聞夕刊(2005年6月8日)に掲載