国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

花(2) ─ 墓地は花園 ─

異文化を学ぶ


イタリアでは室内に花を飾ったり、花壇に凝ったりする人はそれほど多くない。ただし例外は墓地。彼らの墓地ではいつも、菊、バラ、グラジオラスなどの切り花や、シクラメンやアザレアなどの鉢植えの花々が墓石を彩っている。ブーゲンビリアや蔓(つる)バラなどの樹木が根付いて花を咲かせている墓もある。

これは、イタリアの墓参には花がつきもので、特に女性たちが頻繁に近親の墓を訪れて新鮮な花に代えるためだ。墓地が近くにあれば、毎日通う老婦人もいる。だから墓地の前にはたいてい花屋があるし、墓地管理人の仕事の一つは、捨てられた膨大な量の花の処分だ。自分たち生者の生活では花への関心は低いのに、なぜ死者を花で飾るのかはさておくとしても、イタリアの花の市場が墓地を中心に回っていることは確かである。

国立民族学博物館 宇田川妙子
毎日新聞夕刊(2007年4月11日)に掲載