国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

花(8) ─ 草原の花暦 ─

異文化を学ぶ


年間平均気温が零度ほどにとどまるモンゴル高原の、夏は短い。6月下旬から8月中旬までのおよそ2ヶ月のあいだに色とりどりの花が咲き乱れる。

たとえば、ラベンダーの紫はちらほらと縦に散り、ワレモコウの紅はぽつぽつと浮かび散る。多様な色で構成される天然のお花畑は、多様性の共存がいかに美しいかを確信させる。

短い夏に先立って、毎年、春一番の名乗りをあげるのはヤルゴイと呼ばれるオキナグサの一種である。5月上旬、人びとは野に出て、これを食べたヤギを屠(ほふ)って食べて旬の滋養とする。

夏も終わりに近づくと、シャリルジと呼ばれるヨモギの一種が開花し、その花粉が人びとを悩ませる。農耕放棄地や道路端など植生劣化を警告しているのである。

国立民族学博物館 小長谷有紀
毎日新聞夕刊(2007年5月23日)に掲載