国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

海と人(3) ─開拓者としての漁民─

異文化を学ぶ


私たちの毎日の食事には、植物が不可欠である。米にしろ、パンにしろ、食糧不足時に主食だったイモ類にしろ、畑でとれるものだ。人類が農耕を始める以前は、天然の植物が採集されていた。

だから、主食作物の育たない海辺に人が暮らし始めたことは、人類史的な大事件だった。このことは、海でとれた魚を農民の作物と交換して、はじめて可能になった。つまり、海辺の生活は、人間社会の分業化を前提としていたのだ。

分業の発達した現代では、不毛の土地でも多数の漁民を見かける。私の調査地マダガスカルでは、年間降水量500ミリの土地にも漁村が散在する。ひょっとすると、インド洋交易の船乗りが最初の住人かもしれない。なぜなら、この土地の漁船は、南アジアや太平洋のものと類似しているからだ。

国立民族学博物館 飯田 卓
毎日新聞夕刊(2007年6月20日)に掲載