国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

海と人(5) ─三角帆の発明─

異文化を学ぶ


人類史の大部分の間、海や川がハイウエーだった。しかし、順風満帆の時は良いが、人生と同様、逆風の時はどうすればよいだろう。

船の技術史によれば、順風に適した横帆ではなく、マストを軸とする回転の容易な三角帆が、人の海洋進出にとって画期的発明だった。風をはらんで翼の形となった三角帆の向きを変えれば、逆風でもジグザグ前進できる。アラブ人が紀元前後に発明し、季節風を駆使して交易に乗り出した結果、海のシルクロードが形成された。

ところが、ポリネシアに拡散した人々はそれ以前の3500年前ごろから、カニの爪(つめ)型と呼ばれる逆三角形の帆で定常的な南東貿易風に逆らって進んだという。

ヨーロッパが大航海時代に入るはるか前から、三角帆が太平洋をまたにかけていたとは愉快。

国立民族学博物館 久保正敏
毎日新聞夕刊(2007年7月4日)に掲載