国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

海と人(6) ─海水のこと─

異文化を学ぶ


南海の小島で暮らしてみると、海水についてのいろいろな思い違いが解けていく。まず私は水にぬれることが嫌だった。カヌーに乗り、しぶきが飛んでこようものなら懸命に身をかわす。けれども足やお尻は当然ぬれるものだし、すぐに乾くので、別にぬれても何でもないのだ。海水だとベトつくから、水浴びは真水でと思っていたけれど、意外にもサラサラしていて支障はない。結局、雨のシャワーをひたすら待っていた私が、島中で一番汚かったのだった。

海で石けんをつけて髪を洗うと、ポマードをつけたように決まる。土地の娘さんは洗髪後、適当に分けた髪に洗濯バサミをつるす。すると縮れ毛がのびてストレート・パーマの出来上がりだ。思い込みとか身についた暮らしぶりは、不思議で頑固なものである。

国立民族学博物館 小林繁樹
毎日新聞夕刊(2007年7月11日)に掲載