国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

移動する(5) ─マダガスカルまで

異文化を学ぶ


アフリカ大陸の東の島国、マダガスカル。この国の多数者が話す言葉は、アフリカ由来のものではなく、東南アジアやオセアニアの言葉に近い。もっとも近縁の言語はボルネオ島にあり、じつに6000キロを隔てている。

明らかに、インド洋を越えた文化交流が遠い昔からおこなわれていたのだ。マダガスカル語が他の言語から分かれた7世紀ごろ、東南アジアでは海洋王国シュリヴィジャヤが力をもちはじめた。その国から来た船乗りが、マダガスカルを発見したのかもしれない。

とはいえ、現代マダガスカルにすぐれた船乗りは少ない。人口は内陸部に多いし、伝統的な船も外洋航海に耐えられるほど頑丈ではない。海国だからといって、つねに海に向き合ってきたわけではないのだ。日本もしかり。

国立民族学博物館 飯田 卓
毎日新聞夕刊(2007年8月29日)に掲載