国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

都市(5) ─「シンカンセン」の違和感─

異文化を学ぶ


先日、東北地方のあるところで、お年寄りに話を伺った時のことである。彼には「シンカンセン」がいまだにしっくりこないという。

東北新幹線には在来線に直接乗り入れている路線がある。それは在来線に入ると、高架から下りて地べたの上を、田んぼや畑や集落をかすめて走っていく。彼によれば、のんびりした風景の中を、「お蚕の化け物」のような都市的でしゃれたデザインの新幹線が駆け抜けていくのが、何とも場違いでみっともないのだという。

鉄道は東京行きが「上り」で東京発が「下り」だが、東京から下るものが、地方の人々にとって常に快いとは限らない。上り・下りという言葉に端的に現れた東京という都市中心の発想は、もう少し何とかならないものか。彼の違和感はそんな問いかけに思えてくる。

国立民族学博物館 笹原亮二
毎日新聞夕刊(2007年10月31日)に掲載