国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

中国と世界(4) ─ネズミ?ブタ?─

異文化を学ぶ


亥(い)年から子(ね)年への年越しで、多くの人がイノシシからネズミにバトンが渡されるとイメージするだろう。しかし、十二支の亥や子はもともと動物とは関係のない言葉であることは意外に知られていない。

十二支とは木星と対称に動くとされた架空の星である「太歳(たいさい)」が1年ごとに通過していく天空の位置をさす言葉である。十二支に動物が結びついた理由には諸説あるが、現在の中国の十二支獣は後漢のころには決まっていたようである。十二支の考えは中国の周辺のさまざまな国に輸出され、それぞれの国で中国とは異なる十二支獣があてがわれることもあった。日本では豚のかわりに猪(いのしし)が、ベトナムでは牛のかわりに水牛といった具合である。

ところで、ネズミといえば、パソコンにつなぐ操作機がマウスという呼び名で定着している。ところが中国では最近、あるメーカーがマウスのかわりに豚という名前で売り出した。さらに、豹(ひょう)や熊(くま)、あげくにはトカゲまで登場している。性能や大きさに顕著な差があるわけでもなく、マウスでもいいのではと思ってしまうのだが、それは想像力が貧困な筆者の限界なのだろう。身近な動物を用いることで製品をより普及させていく戦術は、かつて十二支に動物をあてはめて天文学を普及させた古代中国の先人たちに通じるものなのかもしれない。

国立民族学博物館 野林厚志
毎日新聞夕刊(2007年12月26日)に掲載