国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

中国と世界(5) ─アラビアンナイトと中国─

異文化を学ぶ


アラビアンナイトでおなじみの「アラジンと魔法のランプ」は、実は中国を舞台とした話である。具体的な都市名までは記されていないものの、アラビアンナイトをはじめてヨーロッパに紹介したアントワーヌ・ガランの『千一夜』(アラビアンナイト)には、「アラジンは中国の少年である」と書かれている。またアラビアンナイトには、「アラジン」以外にも中国を舞台とする話がいくつか入っている。

中東と中国は陸と海のシルクロードによって結ばれており、国際的な港湾都市として発展した12、13世紀の泉州(福建省)では、数多くのムスリム商人が活躍していた。その一方で中東にとっての中国とは、魔法のランプをめぐる入り組んだファンタジーの舞台でもあった。イスラム世界からは遠く離れた異域であり、しかも高度な文明が栄える場所。それが中東にとっての中国イメージだったのである。

アラビアンナイトは9世紀ころのバグダッドで成立したとされている。このころからすでにアラビアンナイトと中国には深い縁があった。西暦751年のタラス川の戦いがきっかけとなって紙の製法が中国から中東に伝えられ、そのわずか1世紀後にはアラビアンナイトの冒頭部が紙に記されることになった。この紙片からアラビアンナイトが世界中に広まっていったとも言えるだろう。

国立民族学博物館 西尾哲夫
毎日新聞夕刊(2008年1月9日)に掲載