国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

中国と世界(6) ─魚皮衣の人びと─

異文化を学ぶ


悠々と流れる黒竜江。その下流近く、川沿いに街津口というちいさな町がある。今は漢族なども多く住むが、もともとは中国の少数民族・ホジェン(赫哲)族の故地である。かつてのホジェン族は河漁を主たる生業として、それに伴う多様な文化を生み出した。

魚の皮をなめして作る魚皮衣(ぎょひい)もそのひとつで、魚皮のなめし技術がとても優れているので、これが魚皮かと思うほど柔らかい。その衣服を着た人びとを漢族はいささかの差別をこめて「魚皮韃子(ユピターツ)」と呼んだ。魚皮を着た韃靼人(だったんじん)ということになる。

ホジェンは魚皮をなめすのに木づちなどを用いる。この技術は黒竜江下流域の諸民族が使用しているし、樺太(サハリン)アイヌにも伝わっている。面白いことに樺太アイヌの魚皮衣は硬くてなめしが不完全であることがわかるし、北海道アイヌにいたっては魚皮をなめす技術を知らないのではないかと思うほどである。

魚皮衣のほかにもアイヌ文化にはホジェン的要素が垣間見える。渦巻き文もそのひとつだ。この文様はひとりアイヌのみならず、黒竜江下流域の諸民族にも存在している。この人びとを通じてアイヌはその文様を取り入れたとみていい。こうしてみると日本の北も中国とのつながりは深いようだ。

国立民族学博物館 佐々木利和
毎日新聞夕刊(2008年1月16日)に掲載