国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

中国と世界(8) ─国民のあらたなかたち─

異文化を学ぶ


這々(ほうほう)の体(てい)で目的の村にたどりつくと、天の助けか、そこに唯一、華人の営む店がある。村でたった1台のテレビを食い入るように見つめる子供たちで店先は鈴なり。村一番の金持ちにして、物持ち。町をむすぶ唯一の交通機関も店の所有だ。村の貨幣経済をになうのも、日本製品をまっ先に使うのも、それを村にひろめるのも彼らの役目。どんなに最果ての島でも、どれほど辺鄙(へんぴ)な山奥でも、そこに村があれば、似たような情景にお目にかかったものだ。それほど中国と東南アジアの関係は長く、そして深い。

華人社会ばかりが世界中で繁栄をつづけていける理由はなに? 華やかなチャイナタウンにばかり目を奪われていても事の本質はみえてこない。その背後には、国の津々浦々、末梢(まっしょう)神経に至るまではりめぐらされた華人ネットワークがある。この地で働く日本の企業戦士がいつも本国との関係に気をくばり、帰国を夢みているのとは大違い。彼らは土地の社会に根をおろし、その養分を糧に生きている。それも、一国の国民であるよりもまえに、なによりもまず華人としての生を生きるのである。

その中国で国家をあげた祭典がひらかれる。いったいどんな思いで彼らはテレビの画面を見つめることだろう? そんな彼らを村の子供たちはどんな思いで見るのだろう?

国立民族学博物館 佐藤浩司
毎日新聞夕刊(2008年1月30日)に掲載