国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

生きものをめぐって(6) ─ ゾウ ─

異文化を学ぶ

タイでもっとも親しまれている動物は象だろう。バンコクの街中でも頻繁に見かける。思わず「象だ!」と声を上げてしまうが、周りは「だからどうした」という顔をしている。

突然変異による白い象は、タイに限らずカンボジアやミャンマーなどでも神聖視されてきた。国王は献上された白象を嫌いな家来を困らせるために下賜する。白象は金銀で飾らなければならず、死んでしまえば咎(とが)を受けることになる。そこから、英語で「白象」といえば、やっかいなもてあまし物を意味することになった。

悠然と道を歩く象は、渋滞で悩むバンコクのドライバーにとってはまさに厄介者だが、スモッグで汚れて真っ黒になった象のほうも、厄介なことだ、と思っているに違いない。

国立民族学博物館 阿部健一

毎日新聞夕刊(2005年7月13日)に掲載