国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

生きものをめぐって(7) ─ ウシ ─

異文化を学ぶ

インドと言えば聖なるウシ。事実、インドには世界最大の1億8500万頭(03年)のウシがいて、その80%強が在来種「こぶ牛」である。柔和な目、大きくはった腰をささえるほっそりした足。くわを牽(ひ)き、満載の荷車を引く。乳、ヨーグルトやギー(精製バター)は重要な栄養源であり、これに糞(ふん)と尿を加えた5品の混合液は、お浄めの必需品である。糞は乾燥させて、煮炊きの燃料にもなる。草食性のウシの糞は、燃やすと懐かしい草の香りがする。

ただ、聖なるウシの死とともに生産される肉と皮は、凶かつ不浄、身分差別とも深く結びついていた。19世紀末から、この皮革流通と加工を足がかりに、経済力をつける「不可触」の人々が登場する。インドのウシは、さまざまな人々の思いを背負って生きている。

国立民族学博物館 押川文子

毎日新聞夕刊(2005年7月20日)に掲載