国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

バブリーなアジア(3) ─火の鳥を求めて─

異文化を学ぶ


ベトナムは空前の経済発展を遂げている。ハノイ郊外の農地はどんどん消えて再開発が進み、道は車とバイクであふれかえっている。町に出れば、お金でどんなモノも買えるのだ。消費の快楽、飽食の喜びを知った人たちが次に求めている先には、質の高い医療がある。

ベトナムの一般的な病院の環境は確かに悪い。相部屋どころか、1台のベッドに2人寝かされていることがある。医者や看護師に個人的にお願いしないと、注射や点滴さえ打ってくれないことも。床下では看病の家族や親族が七輪で煮炊きし、換気が悪いので、臭くて蒸し暑い。話し声がたえないのは、退屈しのぎと、病人どうしが漢方や民間の治療師の情報交換に余念がないからだ。

そういえば5年前、中越国境にある冷涼な高山の観光地で、ハノイから来た団体観光客が土着の薬草を買うのに何万円も払っているのを見て驚いたものだが、今では欧米人や日本人の医師が常駐している病院にベトナム人が入院していることも珍しくない。シンガポールまで行って入院する金持ちも増えている。カネの次に欲しいのは美と健康、というのは世のならいか。歴史を繙(ひもと)いても、富と名声を手に入れた権力者が不老長寿を求めた例は限りない。火の鳥の生き血は、今も昔も世界中の人が欲している。

国立民族学博物館 樫永真佐夫
毎日新聞夕刊(2008年6月18日)に掲載