国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

バブリーなアジア(4) ─音楽カセット・バブル─

異文化を学ぶ


1984年、私が初めてインドネシアのバンドンを訪れたとき、ジャイポンガンとよばれる舞踊が大流行していた。伝統的な合奏音楽ガムランと刺激的なタイコを伴奏にした、ダイナミックな踊りである。ちょうど流行中だったブレークダンスと同じように、若者たちがラジカセで音楽をかけながら街でジャイポンガンを踊っていた。

バンドンを中心とする西ジャワ地方では、1970年代以降、カセットテープが音楽メディアとして定着する。比較的簡便に録音できるため、1本のカセットがヒットすると、次々と似たような録音が売り出された。小さなレコード会社が林立し、1980年代後半には、ジャイポンガンだけでも100種類を超えるカセットが店に並んだ。混沌(こんとん)の中から魅力ある音楽が生み出され、ワールドミュージックがブームとなったバブル期の日本からも注目された。

インドネシアでは、1980年代末にはじまるバブル期に、著作権意識が根付く一方、音楽ソフトに付加価値税が厳しく課された。カセットは値上がりして海賊版との競争力を失い、高騰する契約金を払って人気のある音楽家を確保できない会社は淘汰(とうた)されていった。そして、カセット全盛時代の混沌を生き残った音楽家たちは、練り上げられたコンセプトで勝負するCDに活躍の場を移していくのである。

国立民族学博物館 福岡正太
毎日新聞夕刊(2008年6月25日)に掲載