国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

バブリーなアジア(6) ─タイのクレジットカード─

異文化を学ぶ


「貸したお金が返ってこない」。旧友のゴップがため息交じりにいった。3万バーツ(約10万円)を貸していた同僚が黙って工場を辞め、実家に帰ってしまったという。事務職員として比較的高給取りとはいえ、彼女がこれほどの大金を貸しているのを知ってわたしは驚いた。

タイ北部のランプーン市周辺にも数年前からクレジットカードが出回るようになった。カードをもてば、電話で銀行の口座番号をいうだけで、翌日に希望額を振り込んでくれるという。月利は1.3%程度。「お金を稼ぐのはむずかしい。だけど、これなら簡単。携帯電話をピッピッピッと押して、オーケーを押すと、すぐに出てくる」とゴップ。そうやって手にしたお金で、友人を飲みに連れていったり、最新の携帯電話に買い換えたりするのだそうだ。

カードをつくるには、月収5000バーツ以上が条件で、ふつうの工場労働者にはつくれない。そこでカードをもつゴップは、クレジットで借りて同僚に貸した。月利はなんと10%。内心、自業自得と思いつつ、落ち込む彼女に「実家まで回収に行ったか」と聞いた。「訪ねていくと、家はボロで小さいし、すごく貧しい家庭だった。鼻を垂らした小さい子どももいた。かわいそうでなにもできない。しかたなく、その子にお小遣いをあげて帰ってきたの」

国立民族学博物館 平井京之介
毎日新聞夕刊(2008年7月9日)に掲載