国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

バブリーなアジア(7) ─王制という「バブル」─

異文化を学ぶ


さる5月28日、ネパールは240年続いた王制が国会の決議で廃止され、連邦民主共和国になった。ギャネンドラ国王は、一夜にして民間人になったのである。思えば2001年、共産党(毛派)による「人民戦争」を武力で鎮圧しようと、国王が直接統治にのりだしたとき、王権神話の崩壊が始まった。人びとは世俗化した国王に畏怖(いふ)の念を感じなくなり、神聖な王権が実は「中身のない」権威であることに気づいてしまった。王制という壮大な物語の「バブル」がはじけた瞬間である。それはバブル経済が、実体のない地価があらわになったとき、雪崩を打って崩壊したのとよく似る。

他方で、10年間の内戦と政治の混迷にもかかわらず、景気のほうは悪くない。というより、都市部では地価が高騰し、建築ラッシュや銀行の融資合戦が熾烈(しれつ)だ。国の疲弊に伴い海外へ出稼ぎに行く人が増え、送金が不動産に投資されているからだ。グローバルな送金経済がからくも景気を下支えしているが、ここに来て原油高による燃料の高騰が日用品全般の物価高や品薄を招きはじめている。

新生ネパール誕生の歓喜と政治への熱がそろそろ冷めるころを迎え、海外出稼ぎに依存した経済の是非、それに代わる国内産業の立て直し、雇用創出の議論がよりいっそう求められることになろう。

国立民族学博物館 南 真木人
毎日新聞夕刊(2008年7月16日)に掲載