国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

陸を越え海を渡ったモノ(2) ─タカラガイ─

異文化を学ぶ


アフリカのモザンビーク北部の島を訪れたとき、町のはずれで異臭を感じた。町から離れて歩いていくと、ますます強くなってくる。テニスコートほどの大きさの広場を通りかかったとき、そのにおいは最高潮に達した。みると、コンクリート敷きの広場いっぱいに、大量のタカラガイ(ハナビラダカラ)がばらまかれ、日光のもとで腐臭をはなっていた。

タカラガイは、熱帯の海に生息する種類の貝で、日本では子安貝(こやすがい)とも呼ばれる。古代中国や、中世・近世のアフリカ大陸部などでは、貨幣として用いられた。大航海時代以降にアジア方面を訪れるようになったヨーロッパ人は、インド洋にあるモルディブ諸島からアフリカに大量のタカラガイを持ち込み、タカラガイ貨幣の相場を暴落させたといわれる。しかし、なぜそのタカラガイがいま?

聞いてみると、乾燥して腐臭を軽減したタカラガイは隣国タンザニアに運ばれ、そこからインド方面に輸出されるという。薬品製造の原料になるというから、カルシウム成分を抽出するのかもしれない。

内戦が長びいたモザンビークでは、主として外国人が貿易をリードし、現在さまざまな商品開発をおこなっている。北部地域では、とくにタンザニア人がこの立場にあるようだ。インド洋を越えて南海の産物を運ぶ彼らは、さながら現代のシンドバッドだ。

国立民族学博物館 飯田 卓
毎日新聞夕刊(2008年8月13日)に掲載