国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

創世神話(1) ─ローマ建国神話─

異文化を学ぶ


昨年11月、ローマで、ロムルスとレムスが狼(おおかみ)に育てられた洞窟(どうくつ)が発見されたという発表があった。

ロムルスとレムスとは、古代ローマ建国にかかわったとされる双子の兄弟である。伝承によると、当時ローマ南東の国を治めていた王の姪(めい)にあたる巫女(みこ)が、軍神マルスによって双子を産んだ。怒った王は双子を川に捨てたが、雌狼に拾われ、その乳で育てられた。その後、羊飼いに養われた彼らは、長じて大叔父たる王に復讐(ふくしゅう)した。そして現在のローマの地にそれぞれ新たに国を作ったが、二人の間で争いが起こり、結局、兄ロムルスが弟レムスを討ち、紀元前753年、ローマを建国した。そもそもローマという名は、ロムルスに由来しているという。

この伝承の史実性については、これまでも盛んに議論され、今回の発見も論争を激化させるだろうが、一般には大した問題とはされていない。「カピトリーノの雌狼」という名の、双子が狼の乳を吸っているブロンズ像は、紀元前5世紀の作とされる狼の像に双子が後に付け加えられたものだが、いまやそのコピーは街のあちこちに飾られ、地元サッカーチームのエンブレムにもなっている。土産物のモチーフとしても有名だ。ローマに住む人々にとっては、史実であってもなくても、自分たちの街の最も重要なシンボルであることに変わりないのである。

国立民族学博物館 宇田川妙子
毎日新聞夕刊(2008年10月1日)に掲載