国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

創世神話(8) ─ポリネシアへのヒト拡散史を映すマオリ創世神話─

異文化を学ぶ
 


ニュージーランド北島の西北端のレインガ岬は、先住民マオリの神話と結びついた聖地、死者の魂はこの岬から巨木を伝って地下の冥界に入り、安息の故郷ハワイキに帰ると信じられている。神々の住んでいたハワイキでは、原初、密着していた父なる天と母なる大地を、息子の一人タネが上下にこじ開けて明るい世界ができた。タネは初めて人間の女を作り、彼女に産ませた娘ヒネとも夫婦になったが、それを恥じたヒネは冥界への道を作って冥界の女王となる。かくてこの世とあの世が生まれた。このハワイキ神話の大筋は、ポリネシアに共通すると言う。

帆つきカヌー航海術を身につけ、東南アジアからサモア近辺へ移動した人々が、さらにポリネシアへ拡散し、その一派が1000年前ごろにニュージーランドにたどり着いてマオリの祖となった。マオリにはカヌーによる移住伝説もあり、中継点サモアと目されるハワイキの神話がポリネシアに共通するのも、ヒトの拡散史が神話や伝説の形で各地に伝承されているからだろう。

面白いのは、マオリ創世神話が日本の天地開闢(かいびゃく)や黄泉(よみ)の国モチーフとも類似すると、神話学で説いている点だ。赤道をはさんだニュージーランドは、案外、日本と近いのかもしれない。

国立民族学博物館 久保正敏
毎日新聞夕刊(2008年11月19日)に掲載