国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

モノめずらしいくらし(2) ─ ブーメラン ─

異文化を学ぶ

オーストラリア・アボリジニの狩猟具、「く」の字型で手元に戻る回帰型はその代表。鳥の群れの上空をかすめ、手前に追い立てるのが元来の使い方だ。世界の他地域では弓矢の導入で廃れたが、弓矢が導入されなかったアボリジニ社会では、武具、儀礼具、拍子木、掘り棒など、用途に応じて様々な形に発達した。回帰型はその一部に過ぎない。

220年前に入植した白人は回帰型の不思議に魅せられ、このブーメランを19世紀以降オーストラリア全体のシンボルとした。「またお越し」「安全に帰る」との意味でホテル・交通機関・爆撃隊のシンボルにも使い始めた。現在は世界中で競技会もあるが、アボリジニは自らのアイデンティティ回復のために汎アボリジニ・シンボルとして再活用し始めている。

国立民族学博物館 久保正敏

毎日新聞夕刊(2005年8月10日)に掲載