国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

嗣(つ)ぐ・承(つ)ぐ・継ぐ・接ぐ(6) ─ソマリの人々のラクダ文化─

異文化を学ぶ


最近、ソマリア沖では、国際海運への脅威となっている海賊のことが問題になっているが、海賊の担い手はソマリの人々である。同時に彼らは、内陸部で約500万頭という世界で最も多数のラクダを飼育しており、その一部はエジプトやアラビア半島にまで輸出されている。

ソマリの遊牧民にとってラクダの乳は、パワーの源泉であり現金収入源としても欠かせない。雄ラクダは、水くみやキャンプ移動の際に家財道具を運ぶのに使われる。ひとたびラクダが病気になると、胃腸の場合には熱した鉄をおなかにあてたり、市販の薬を利用するなど、ラクダの治療に余念がない。

私の知り合いのファラー氏は、30歳前後というのに約50頭のラクダを飼育している。いずれのラクダも、彼が長男であるということで、父の死亡後に譲り受けたものだ。1頭当たりラクダは約2万~3万円もするから、それを売れば家を建てたり車を購入できるはずだが、ラクダの群れを拡大することが彼の関心事だ。

世界的に見ると近代化にともないラクダの役割は各地で減少しているが、ソマリの多くは、現在でもラクダと人との緊密な関係を受け継ぎ平和に暮らしている。

国立民族学博物館 池谷和信
毎日新聞夕刊(2009年3月18日)に掲載