国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

モノめずらしいくらし(5) ─ はかり ─

異文化を学ぶ

普遍の単位にもとづいて社会的交渉をおこなうのは、近代人の特質だろう。マダガスカルの漁村では、漁師が村人に魚を売る場合、はかりをめったに持ち出さない。だが、遠方から来る仲買人は、ばねばかりをつねに所持し、厳密に魚を計量する。他の業者に転売するうえで、間違いは禁物だからだ。

他の業者への連絡や商品輸送の範囲は、国家規模に広がり、昔ながらの人づき合いの範囲を超える。仲買人の持つはかりは、まさしく近代を体現している。

しかし、漁師が近代からとり残されているわけではない。ある商売上手な漁師は天秤(てんびん)ばかりで魚を計量して売るが、このはかり、潮風でさびついてうまく動かない。それを知らない仲買人は、実際より重い目方分の金を払い、意気揚々と家路につく。

国立民族学博物館 飯田 卓

毎日新聞夕刊(2005年8月31日)に掲載