国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

あいまいさの文化(3) ─ いい歌い手の条件 ─

異文化を学ぶ


最近、奄美大島に度々足を運んでいる。そこで、シマウタを愛好している人々と親しくなった。彼らのウタアシビ(歌遊び)に同席した時のこと、彼らは臨機応変に歌詞を掛け合って曲を延々と歌い継いでいく。ぼくは、そんな彼らのスリリングな歌のバトルを堪能しつつ、それを可能にする見事な技量に舌を巻いた。それもそのはず、彼らは実は、コンサートやCDにも名を連ねる実力者ぞろいなのだ。

とはいえ、本業は理容師、居酒屋のママ、主婦、小学生……いわばアマチュア。実力のある歌い手でもプロではないのは、奄美ではごく普通のあり方だ。プロであることがいい歌い手の絶対条件ではない。そんな彼らと出会ってぼくは、「歌を歌う」とはどういうことか、改めて考えるようになった。

国立民族学博物館 笹原亮二

毎日新聞夕刊(2005年12月28日)に掲載