国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

あいまいさの文化(4) ─ 半人半霊 ─

異文化を学ぶ


南太平洋のバヌアツに住んでいた時、血便混じりの下痢と腹痛に断続的に1カ月近く悩まされた。病院の薬を飲んでも効果がなく、見かねた現地の友人に評判の民間治療者にかかることを勧められた。

その見立てによると、病気の原因は2人の霊的な存在であるという。2人は兄弟で、病気や死をもたらす存在として人々から恐れられていた。だが、一方では台風の襲来や干ばつの到来を予示する良き存在でもあるという。こうした両義的な性格をもつ2人は、あくまでも「霊的な存在」であって霊ではない。というのも、彼らの母親は精霊だが、父親は人間なのだ。

さて、この「半人半霊」とでもいえる存在に病気にされた私だったが、治療者のつくった薬草の汁を飲んでから下痢と腹痛はピタリと治まった。

国立民族学博物館 白川千尋

毎日新聞夕刊(2006年1月4日)に掲載