国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

いきいき五感力(7) ─ 初級・ハノイの道路の渡り方 ─

異文化を学ぶ


経済発展がめざましいベトナムの首都ハノイでは、通りも路地もバイクの洪水だ。この2,3年でかなり信号が守られるようになったが、停電も多いし、歩行者側の青信号の時間も短い。初めて訪れた外国人にとって道一つ渡るのが命がけに近い。

しかしどんなに無秩序に見えても、コツはある。右側通行なので、まず道路際を逆走してくるバイクに注意しながら足を踏み出そう。次に、かまびすしく迫り来るバイクの濁流に対しては、臆(おく)さず、対岸にまっすぐ同じペースで足を運んでいく。

大事なのは、これから渡るのだという強い意志を目と全身からにじみ出させ、運転手たちを圧倒すること。ただし脱力したままで。勝負の敗北を悟るや否やヒラリと身をかわせるように。

国立民族学博物館 樫永真佐夫

毎日新聞夕刊(2006年5月24日)に掲載