国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

いきいき五感力(8) ─ 「言語」としての手話の奥義 ─

異文化を学ぶ


ボランティア活動が一般的になってきて手話を学ぶ人も多いと思う。しかし、健常者の手話は「日本語」という文法体系の中で単語だけ手話に置き換えたもので、ろう者の使う手話は別の文法体系を持つ全く別の言語だ、という画期的な主張が市田泰弘さんらによって行われている。

近年、これほど衝撃を受けた主張はなかった。ところが、音声を言語の本質とする考え方が根強くあり、母語としての手話がそもそも国から言語として認められていない。昨年、日弁連が「手話教育の充実を求める意見書」を提出、手話を言語として認めてほしいと国に要望した。

聴覚障害は千差万別。日本手話の母語者同士の生き生きした「会話」は奥深い。ろう者の主張に「耳順(したが)う」ことを願う。

国立民族学博物館 出口正之

毎日新聞夕刊(2006年5月31日)に掲載