国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

働くということ(5) ─ テレホンカードと移民労働者 ─

異文化を学ぶ


横浜・中華街。夕刻、駅と中華街を結ぶ人通りの多い橋に、ひっそりと母と子が座っている。移民して間もない中国人の親子だ。しばらく見ていると、白衣姿のコックさんや中華街で暮らす移民たちがその母子の前で足を止めて何かを買っている。国際電話のプリペイドカード。国際電話代が割安になるこのテレホンカードは、移民にとっての必需品だ。

現在、中国から海外へ移民している華僑・華人は3000万~4000万人。家族で移民した場合、テレホンカードを売る母子のように親は働きながら子育てをする。一方、単身で働きに出た人たちは、電話で聞く故郷にいる家族の声を励みに、異郷でのつらい生活に耐えている。テレホンカードを売り買いする中国人の姿に、移民労働者やその家族たちの縮図が見える。

国立民族学博物館 陳 天璽

毎日新聞夕刊(2006年7月5日)に掲載