国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

働くということ(7) ─ 自然相手の仕事 ─

異文化を学ぶ


自然を相手にする暮らしは、一部の都市生活者の理想だという。確かに、オフィスや工場での労働は、人間の生理に多くの負担をかけるようだ。この点、自然相手の労働は健康的だし、人間関係に気を遣うことが少なくてすむ。

しかし、自然も決して素直ではない。漁師さんたちに海の仕事を教わっていると、いつも、海の気まぐれさを思い知らされる。漁の季節はかぎられていることが多いし、海が荒れて出漁できないこともある。不漁で困ることもあれば、全国的な豊漁で魚の値段が下がり損をしてしまうこともある。

収入を安定させるため、多くの人びとが第一次産業から離れていった。それが人類の歴史でもあり、日本の戦後史でもある。しかし、それを理解したうえで自然相手の仕事を再評価できないだろうか。

国立民族学博物館 飯田 卓

毎日新聞夕刊(2006年7月19日)に掲載