国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

色(5) ─ 砂漠の緑 ─

異文化を学ぶ


サウジアラビアの国旗をご存じだろうか。緑一色の地色にコーランの章句が白文字で書かれている。古来、中東世界では緑色には特別な意味があった。

アレクサンダー大王の伝説では、大王に「生命の水」のありかを教えた人物は、アラビア語で「緑の人」を意味するヒズルと呼ばれている。ヒズル信仰はイスラムにも受け継がれ、今でも泉などの近くにはヒズル廟(びょう)が残っている。また、アラブ世界では緑色のターバンは預言者ムハンマドの子孫であることを表している。

オマーンを訪問した際、お土産に日本の「匂(にお)い袋」を持参したことがある。さまざまな色を取り交ぜていったのだが、誰もが欲しがったのは緑色の匂い袋だった。中東で緑色が愛されるのは、砂漠の多い風土に原因があるのかもしれない。

国立民族学博物館 西尾哲夫
毎日新聞夕刊(2006年11月1日)に掲載
サウジアラビア国旗
参考:サウジアラビア国旗