国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

成長と試練(1) ─ 教室を出て学ぶ ─

異文化を学ぶ


機械化がすすんだ現代でも、人間にしかできない仕事はある。手仕事といわれる工芸においては、作品の用途や素材に応じて、作品を作る手や体の動かし方を微妙に調整しなければならない。作り方を頭で覚えこむだけでなく、素材と対話できるような手や体を育てる必要があるのだ。だから、よい職人になるには、教室の外で学ぶことのほうが重要だ。

漁師という職業も同じだろう。私が通うマダガスカルの漁村では、小さい子どもたちも、親に連れられたり友だちを誘ったりして、体を動かしながら漁を覚える。潮や天気がよければ、学校を休むこともある。政府の教育関係者は、こうした実情をよく思っていない。しかし、海で働く人たちを育てることも、長い目でみれば国益なのではなかろうか。


国立民族学博物館 飯田 卓
毎日新聞夕刊(2007年2月7日)に掲載