国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

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モノを見る目

(4)ラオスの蚊帳  2009年4月22日刊行
白川千尋(先端人類科学研究部准教授)

ラオスの伝統的な蚊帳
私はマラリア対策にかかわったことがある。そのときの仕事の一つが蚊帳を配ることだった。マラリアは蚊が運ぶので、蚊帳の使用が予防につながる。配っていた蚊帳は、中が透けて見える涼しげな化繊のものだった。こうした蚊帳はアジアの国々では店でも普通に売られており、人々の間で広く使われている。

先日ラオスであるお宅を訪ねたときのこと。部屋の奥に大きな布が箱形に張られているのに気づいた。何だろうと思って近づいてみると、驚いたことに、その内側には化繊の蚊帳が吊(つ)ってあった。

当初は蚊帳が布の中に吊ってある理由が分からなかったが、後にラオスの伝統的な蚊帳を見て合点がいった。綿の布などでつくられた伝統的な蚊帳は、中が見えにくく、大勢の家族が寝起きをともにする部屋のなかで、個人の空間をつくり出すことができる。化繊の蚊帳を布で覆っていたのも、中が透けて見えてしまう短所を補おうとしたのだろう。

マラリア対策に携わっていた私にとって、蚊帳は病気から身を守るための手段であった。しかしラオスでは、人目を避ける間仕切りでもあったわけである。ラオスの蚊帳との出会いは、私の蚊帳を見る目を変える忘れ難いものとなった。
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