国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

旅・いろいろ地球人

モノを見る目

(5)織物は招く 『毎日新聞(夕刊)』掲載 2009年5月13日刊行
樫永真佐夫(研究戦略センター准教授)

ベトナム・ビンルーの市場
トン・キットという肩下げがある。北部ベトナムから北ラオスの盆地に住む黒タイ族が日常的に用いる、赤い綾織り布で作った木綿製の鞄で、彼らのエスニックシンボルと言ってもいい。調査中は、私もノート、ペン、デジカメ、電池、ティッシュなどを持ち運ぶのに、いつもさげている。

村人を訪ねると、女性たちがしばしば私のトン・キットを注視する。まもなく手にとって、デザイン、素材、織りや縫製の技術などを吟味する。すると、たいがいこう言う。「自分が作った、もっといいのをあげる」。私の目には大同小異だが、とにかくこうして新しいコレクションが増える。

次は、中越国境に近いビンルーの市場を訪ねたときの話である。私が北ラオスに住むルー族の織り柄の綿布を首に巻いていると、地元のルー族女性たちの視線が釘付けになった。そして「こんないい織りは、ぜひ真似(まね)したいから、売ってほしい。あるいは交換しないか」と、伝統的な織物で作ったスカートを籠(かご)から取り出し、私に迫った。現地の伝統に介入したくないので断ったが、遠くに住む、自分たちと同じ民族の織物だとただちに見抜き、その技術を進取しようとする彼女たちの心意気に感服したものである。
シリーズの他のコラムを読む
(1)動詞で見る 小林繁樹
(2)根源美 八杉佳穂
(3)手を動かして目を鍛える 上羽陽子
(4)ラオスの蚊帳 白川千尋
(5)織物は招く 樫永真佐夫
(6)目利きの真偽 三島禎子
(7)手にとる 佐々木利和