国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

旅・いろいろ地球人

涼を飲む

(8)生涯最高の乳酸飲料  2009年9月30日刊行
三尾稔(研究戦略センター准教授)

家族で気軽にラッシー・タイム

初めてインドの農村で調査をしていたとき。酷暑の盛りのころの話だ。

50度近い気温が続き、雨も降らないため、薄手のシャツなど洗えば5分で乾く。こうなると村人も農作業を休み、涼しい木陰でじっとして酷熱の過ぎる夕方を待つ。私も古老と木陰に座り、ぐったりとして暑さをやり過ごしていた。

すると、通りかかった村一番の元気者のおばさんが「あんた、いいもの作るから待ってなさい」と声をかけてきた。彼女が持ってきたのは、白いどろりとしたジュースだった。「ほら。これね、ラッシーって言うんだよ」

その甘酸っぱさと言ったら!見かけとは違いのどごしも爽やか。一息に飲みほすと、干からびた体が蘇(よみがえ)った。

今や日本でもラッシーをよく見かけるが、私の生涯最高の味はあの最初のものに尽きる。

ラッシーはヨーグルトに砂糖と氷を混ぜてよく撹拌(かくはん)し、バタークリームを載せれば出来上がり。北インドではポピュラーな飲み物で、暑季には街角のラッシー・スタンドに行列ができるくらいだ。

濃厚で爽やかな味わいの秘訣(ひけつ)は原料に水牛の乳を使うこと。牛乳しかない日本の家庭では本場の味を作るのはちょっと難しい。

シリーズの他のコラムを読む
(1)イモからつくった水 池谷和信
(2)カヴァで寝不足知らず 丹羽典生
(3)フィンランドの自家製ビール 庄司博史
(4)サトウキビジュース 樫永真佐夫
(5)マッコリ 朝倉敏夫
(6)混合飲料 野林厚志
(7)冷たいイコールすずしい? 笹原亮二
(8)生涯最高の乳酸飲料 三尾稔