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(4)古代美に触発された創造と破壊 『毎日新聞(夕刊)』掲載 2009年10月28日刊行
関雄二(研究戦略センター教授)

ゴーギャンにも霊感を与えたペルー北海岸モチェ文化の人面土器(4~5世紀ごろ)

20世紀初頭、近代西洋美術からの脱却を模索した欧米の芸術家は、古代文明に関心を寄せ、数多くのモチーフを自らの作品に取り入れた。

たとえば、有名なムンクの「叫び」は、アンデス文明のミイラを題材にし、ペルーに滞在したことのあるゴーギャンも、インカ帝国以前に栄えた古代文化の土器やミイラから霊感を得て、陶磁器や絵画を制作した。

こうした芸術家の制作活動に、博物館の収蔵品が貢献したことは間違いない。考古学者が研究目的に収めたはずの品に新たな庇護(ひご)者が現れたともいえる。

これは当時の博物館にとっては助けとなった。というのも、初期の博物館収蔵品には、詳細な情報を欠く場合が多く、出土地や層位など詳細な情報や脈絡を重んじるようになった考古学者は、質より量を重視するような博物館収蔵品に対する関心を失い始めていたからである。

ところが古代美術という新分野の成立は、やがて骨董(こっとう)品市場を生み出し、皮肉にも文化財の盗掘や密輸を誘発していくことになる。

近代西欧の古代美との出会いは、創造と破壊という矛盾を誕生させた瞬間でもあった。

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