国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

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人、アートと出会う

(5)トンパ文字の魅力  2009年11月4日刊行
横山廣子(民族社会研究部准教授)

民博が所蔵する張雲嶺の「種をまく」

中国雲南省のナシ族で伝統的に宗教儀礼をつかさどってきた人びとは「トンパ」とよばれる。長大な儀礼の文言を記録するために彼らが使ってきた絵のような文字、それが「トンパ文字」である。

現在、「現代トンパ画派」と名乗る画家集団がいる。その中核をなす画家にはナシ族であること以外に共通項がある。大学で専門の美術教育を受けた後で、トンパ文字と出会っていることだ。

代表格の一人、張雲嶺は縁あって才能を見いだされ、大学で中国画を学んだ。故郷に戻り、ナシ族文化の記録と整理にあたる仕事に就き、初めてトンパが描く文 字や宗教画を目にする。彼が生まれた1950年代に、トンパによる宗教活動は迷信のレッテルをはられて禁じられてしまっていたからだ。

西洋美術をも学んだナシ族が、自民族の伝統文化でありながら新鮮な感覚でトンパ文字と出会い、その文字を絵の表現に取り込んだ独特の作品群を生み出した。 トンパ文字には童心に回帰させるような一種の原初性があり、人の創造心をかきたてる。トンパ文字を素材に作品づくりに挑戦してみると、プロでなくても思わぬ自分の絵心を発見することがある。

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