国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

旅・いろいろ地球人

人、アートと出会う

(7)暮らしで魅了するアーミッシュ・キルト  2009年11月18日刊行
鈴木七美(先端人類科学研究部教授)

キルトを仕上げるアーミッシュの女性たち

アメリカ合衆国ではパッチワーク・キルトが盛んだ。端切れを捨てずに利用する開拓者の伝統だとされる。パーツの繋(つな)ぎ方で思いがけない新しい作品が生まれるエコアートだ。

「簡素な生活」を信条とするキリスト教プロテスタント、アーミッシュの人たちは、飾らず贅沢(ぜいたく)品をもたず、個人として目立たぬよう揃(そろ)いの服を着ている。地味な数色の布で、組み合わせを工夫しステッチをきかせたキルトは、独特の存在感で部屋を飾る。ベッドカバーなど大きな品の仕上げは、皆で表布と中綿、裏布を合わせ縫う賑(にぎ)やかな作業となる。

家屋や家具を作る時にも、形やデザインを工夫する。窓のシェードにはグリーンがよく使われる。白塗りの外壁に映え、芝生や果樹、ハーブや野菜畑と爽(さわ)やかな景色を生み出している。伝道はしないが生活そのもので信念を示す彼らにとって、生活品や暮らしの佇(たたず)まいもアイデンティティーの表現だ。

欧州から宗教迫害を逃れてきた彼らは、現代社会と距離を保ってきた。だが彼らのキルトはオークションを通して外の世界へ届けられ、収益は世界の紛争・被災地に送られる。生活品アートは、互いの変化を強いることなく、彼らと外の世界を繋いでいく。

シリーズの他のコラムを読む
(1)極北のアーティスト 岸上伸啓
(2)触覚芸術鑑賞法「やゆよ」のススメ 広瀬浩二郎
(3)意識せざるアート 佐々木利和
(4)古代美に触発された創造と破壊 関雄二
(5)トンパ文字の魅力 横山廣子
(6)盗難の教訓 齋藤晃
(7)暮らしで魅了するアーミッシュ・キルト 鈴木七美
(8)人生のデザイン 佐藤浩司