国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

旅・いろいろ地球人

暖をとる

(3)薪ストーブの恩恵―厳冬期のシベリア  2009年12月16日刊行
佐々木史郎(民族文化研究部教授・副館長)

雪で固められた狩り小屋

専門とする地域がシベリアをはじめとする北方ユーラシアの寒冷地のために、暖房は常に命にかかわる問題である。とはいっても北の人々が常時寒さに震えながら冬を過ごすわけではない。逆に冬の住居の中は夏以上に暑い。

ロシア連邦サハ共和国の内陸地方は北半球の寒極といわれ、人間が常時暮らす地上では最も寒い地域である。そこで猟師たちとともに11月後半の2週間を丸太小屋で暮らしたことがある。その小屋の暖房は鉄製の四角いストーブが一つだけ。外は常時、氷点下40度前後である。当然火をたく前は寒い。しかし、ストーブの中で太い薪(まき)が音を立てて燃え始めると急速に暖かくなる。たちまち室内の温度は20度を越え、時に30度近くまで上がる。そうなるともうシャツ1枚で十分である。

ただし、これには家の作り方が関係する。もともと丸太は断熱効果が高いが、隙間(すきま)にぼろ切れやこけを詰め込んで徹底的に隙間を埋める。さらに建物の下半分を雪で固めて、床下から冷気が上がらないようにする。

薪の火力も相当なものである。ただし、すぐに燃え尽きるため、頻繁にくべないと火が続かない。そのために消費量は大変なもので、ほぼ年中薪の心配をしなければならない。

シリーズの他のコラムを読む
(1)極北の紅茶 岸上伸啓
(2)家に帰ったら、床にへばり付こう 太田心平
(3)薪ストーブの恩恵―厳冬期のシベリア 佐々木史郎
(4)インドの寒い夜 上羽陽子
(5)屋根裏の暖炉 山中由里子
(6)熱帯の夜は涼しい 信田敏宏
(7)暖炉にこだわる人々 宇田川妙子