国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

旅・いろいろ地球人

宗教とアルコール

(1)酒は百薬の長?  2010年2月3日刊行
新免光比呂(民族文化研究部准教授)

アラブの友人と楽しい宴

宗教と儀礼に酒はつきものである。神道に御神酒があればキリスト教にはワインがある。

一方、酒を好まぬ考え方も宗教にはある。仏教の戒律では肉食妻帯とならんで飲酒は禁じられるし、キリスト教の一部やイスラームでは、人間の欲望への嫌悪から否定される。

だが、人はそれでも酒を飲む。時には過ぎるほどに。記者会見で酩酊(めいてい)する人もいれば、公園で裸になる人もいる。そこで、それを許容する大らかな社会もあれば、自己管理能力の欠如として厳しく指弾する社会もある。

アルコールというのは、果物穀物が自然発酵すればどこでもできる。アフリカでは猿がよっぱらうことがあるという。人間がそのアルコールを洗練すれば、ワイン、ビール、老酒、日本酒、ウイスキー、ウオツカなどなど、飲み助にはよだれがでる飲み物となる。

ルーマニアではツイカという蒸留酒が人々の生活に深くかかわる。50度前後の強いものだ。冬の寒さを和らげ、夏の暑さに疲れた身体を元気づける、なくてはならない飲物である。ただし、アルコール中毒者がいないわけではない。

賢人はいう、酒は百薬の長と。だが飲み過ぎにはご用心。

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