国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

旅・いろいろ地球人

そう言えば、あのとき・・・・

(2)タトゥーを追憶 『毎日新聞(夕刊)』掲載 2010年4月14日刊行
近藤雅樹(民族文化研究部教授)

背中でトンボが一休み、と思いきや・・・=04年、プラハで

見知らぬ編集者から突然、電話がかかってきた。彼は「タトゥーをテーマに、文化論的な本を書いてほしい」と言う。10年ほど前のことだ。民博の「移動博物館」用に私が編集した「神々のパフォーマンス」(淡交社)を読んで「イケル!」とふんだのだそうだ。

断った。国際シンポジウムと、企画展「くらしの博物誌」の実行委員長として多忙すぎたからだ。でも、食いついてきた。離れない。結局は「じゃあ」と引き受けてしまった。

でも、ひとつだけ、条件をつけた。「5年待って」と。

以来、私は、道行く人たちの露出した腕や肩を彩るタトゥーに目を注ぐようになった。香港では、ホテルのエレベーターに乗り合わせた少女の左頬(ほお)に、ひとひらの小さな花びらがあるのを見とめた。思わず「Pretty!(かわいい)」と言ったら、母親が微笑した。少女も誇らしげに両袖をたくしあげた。ハートを連ねた腕輪状のタトゥーが現れた。

以来、街頭でタトゥーを施した人(なぜか、女性ばかり)を見かけると、ストーカーめくようになり、撮影するために追尾する自分がいたことを思いだす。

期限はとうに過ぎ写真はたまったが、原稿はまだ途中。編集者からの催促は絶えた。

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(2)タトゥーを追憶 近藤雅樹
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