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そう言えば、あのとき・・・・

(7)誘惑する壁 『毎日新聞(夕刊)』掲載 2010年5月26日刊行
近藤雅樹(民族文化研究部教授)

サグラダ・ファミリアの尖塔

「平成の大修理」が本格化した姫路城。優雅な天守閣を仰ぎ見るとき、よく思い出す。半世紀近く前に、ある映画の撮影で白壁に手裏剣を投げつけた連中がいたことを。映画の原作者はイギリスのスパイ小説家、イアン・フレミング。

この事件は映画の撮影中に起きた。俳優やエキストラの人たちも、観光に来ていただけなら、こんなひどいことはしなかったのではと、当時は思った。しかし……。

日常から離れると、有頂天になって羽目をはずす人たちがいる。その実態を、私は、バルセロナの名所で見せつけられた。落書きだ。場所は、サグラダ・ファミリア(聖家族)教会。

ガウディの代表作であり、1882年以来、まだ工事中である。完成するまで、まだ数百年がかかるという。

驚嘆すべき芸術作品である。未完成なのに、世界遺産登録されているのだからオドロキ。

落書きは、公開されていた尖塔(せんとう)の中でも、いちばん高く上った所から数メートル下方で見つけた。落書きした当時は、そこが一番高かったのだろうか。

一瞬、冷やりとして隣りにいる人の顔色をうかがった。狭い階段を昇りながら、彼は、遠くの風景を眺めていた。

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