国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

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くむ

(2)ラクダのための水くみ  2010年6月9日刊行
池谷和信(民族社会研究部教授)

ケニア・コースト州の水場の風景=2010年3月4日

今年の2月下旬、7年ぶりにケニア北東部に暮らすソマリの知人を訪ねた。わが国ではソマリといえば、ソマリア近海での海賊問題で知られるが、約600万頭 という世界一の頭数のラクダを飼養する人びとでもある。ラクダの乳や肉をパワーの源泉として利用し、婚資としても使われる。

2月は乾季の終わりということもあり、直径50メートル余りの円形のくぼ地に水が残っていると、その周りには多数のラクダが集まっていた。その総数は1000頭を超えるが、200頭余りの群れに分かれている。それぞれは10キロ以上離れた各地のキャンプからやってきたという。水場に着くと、水たまりの斜面の上にラクダ用の水飲み場をつくる。そして、ポリタンクの容器を使って、何度も何度もラクダのために水をくむ。この作業は、たいへんな重労働である。

どうして、ラクダに直接、水たまりの水を飲ませないのであろうか。水場は、政府が道路を建設する際に使った土を掘った後のくぼ地であり、誰の所有ということはない。しかし、ここでは運搬用ロバをつれたソマリの女性たちによって飲み水もくまれている。ラクダを水の中に入れて水を汚すことがさけられ、家畜と人が限られた水を分かち合っている。

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