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旅・いろいろ地球人

お墓のはなし

(3)死者との会食  『毎日新聞(夕刊)』掲載 2010年8月18日刊行
庄司博史(民族社会研究部教授)

中央の婦人のご主人が亡くなって10年目の命日に集まった人々
キリスト教でも宗派により、死者の扱いに関しては異なる点が多いが、正教とプロテスタントは、その差が際だっているようだ。

エストニア南部、ロシアとの国境沿いに、エストニア人と民族学的に同系の正教徒、セトゥ人が住む。その地域の多数派をしめるプロテスタントのエストニア人と同様、強い方言をはなす。食生活もかわらない。

しかし、宗教慣習に関しては別だ。セトゥ人は信仰にあつく、足しげく教会にかよう。その教会での礼拝は司祭と信徒の掛け合いのような聖歌で進められ、お香とろうそくの香りがたちこめる薄暗い聖堂は日本の寺を思いださせる。

そして特徴的なのは墓参である。命日や教会の祭日には親戚(しんせき)縁者、ライ麦パンやハム、そしてウォッカ持参で墓地に集合。通りがかりの村人も加わり、故人のおもいで話しに共に時をすごす。花以外の供物などもってのほかのプロテスタントの墓地とは対照的だ。

接待好きで、人づきあいのいいこの地域の人びとのメンタリティーからいって、正教の墓場での会食はずっと地に足をおろしているようだ。むしろ、清楚(せいそ)だが愛想のないプロテスタントは無理をしているなあと思えてならないのである。
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