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旅・いろいろ地球人

お墓のはなし

(8)死者の日 『毎日新聞(夕刊)』掲載 2010年9月22日刊行
中牧弘允(民族文化研究部教授)

死者の日の墓地(ブラジルのベレン市)
カトリック教徒にとって11月2日は「死者の日」である。お盆に似た日で、墓参がなされ、死者との霊的な交流がはかられる。

ブラジルではふつう花とロウソクをもって墓地に行く。墓は花で飾られ、ロウソクが灯(とも)され、亡くなった家族や親族、あるいは友人や知人たちとの魂の再会をはたす。

しかし、そればかりではないことに気がついた。墓参の人びとのなかには特定の墓に祈願している者がいたからである。

アマゾン川の河口都市ベレンで最も人気の高い墓のひとつはカミーロ・サルガード医師のものだった。かれは生前、頭痛を治す医者だったらしく、いまでも頭痛や病気の平癒のために願掛けをする人が少なくない。感謝の印としての奉納物もささげられていた。

実は、かれはエスピリティズモとよばれる心霊術の医師だった。ブラジルの心霊術は19世紀のフランス人の思想家アラン・カルデックに強く影響されている。その特徴は死霊との交流をはかり霊性の向上をめざすことにあった。だが、ブラジルでは、腕利きの医師が没後までも霊的世界から治療に動員されるようになっていた。
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